本年度は、昨年度の総論的な「資産(patrimoine)」に関する研究、特に、目的充当資産論(patrimoine d'affectation)の分析を基礎に、目的充当資産論の立法的承認と言われる、信託財産の構造について分析した。その際、特に受益権能に関する規定が極端に少ないフランス法の特徴を分析し、また、国家会計監査委員会(Conseil National de la Comptabilite)の意見書(信託に関するものの他に目的充当資産論一般に関する意見書あり)を分析することによって、フランス信託法が、基本的には、設定者=受益者と受託者の二者間、あるいは、設定者と受託者=受益者の二者間の取引として想定されている点を示した。 さらには、フランスの信託法(2007年2月19日法)が制定されて以来なされた度重なる改正(2008年8月4日の経済現代化法、2008年12月18日オルドナンス、2009年1月30日オルドナンスを通じて、2009年5月12日法)の検証を行った。その検証を通じて、フランス信託法の機能としては、少なくとも現時点で「担保のための信託」に収斂しているのではないかと分析した。 また、資産論の解釈論的・実践的意義を検討するために、各論的考察として、用益権の対象となる有価証券資産の法的性質論の分析を開始した。これは、破毀院第1民事部1998年11月12日判決を契機として、個別物(この場合は有価証券)の流動性「代替性(fongibilite)」を承認するために有価証券資産を集合物として認定した判例であり、資産の「流動性」との関係から派生する問題として、資産の構造解明の一端を担う。権利客体論一般という観点からみた場合に、資産論が具体的に解釈論にどのように反映するのか示す格好の局面であるため研究を継続する。
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