本年度は、研究テーマに関連する、わが国における複合的契約関係の法律問題を考える際に、当事者の法的地位との関わりを強く意識するようになったのは昨年度と同様である。しかし、そこでは単なる事業者と消費者という対立軸では不十分なのではないのかという疑問も生じた。 本年度は、特に、わが国の裁判例の動向を探るために、裁判例を収集し、その内容を把握することに努めた。これは、昨年度の債権部分の裁判例を担当した『判例回顧と展望』での、契約に関わる裁判例の紹介を通じて、その全体像を掴むとともに、最新の状況を把握することができた。 また、消費者法に関する裁判例については『現代消費者法』にて現在も連載中である。下級審裁判例が大半を占めるとはいえ、各事案の特徴およびその問題の複雑さを再認識する機会を得ることができた。部分的解消法理の構築には、消費者としての法的地位の考慮も不可欠であるが、それをどのようにリンクさせるかは今後の課題である。 他方、海外の動向に関しては、2009年7月に、わが国でウィーン統一売買条約(CISG)が加入されるに至ったが、その後のヨーロッパ統一契約法モデルとしての動向を知るために、海外研究者の来日講演原稿の翻訳を積極的に行った。本年度中に公表できたものは、共訳も含めて二本にしかすぎないが、次年度以降、順次公表していく予定である。 本年度の研究実績をふまえて、複合的契約関係における部分的解消法理に関する研究について、具体的事例を扱うための準備は整いつつある。これらの実績を踏まえて、次年度の研究につながるように活かしたい。
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