本年度は、研究テーマに関するわが国における複合的契約関係の法律問題を考える際に、当事者の法的地位との関わりを強く意識するようになった。その背景には昨年度に引き続き行った『現代消費者法』誌に連載していた「最新判例情報」で収集・分析した裁判例を見る限り、単に、事業者と消費者という対立軸での理解では不十分で、両者を線引きするための境界もまた不明瞭であることが確認された。 また、消費者法関連の裁判例にとどまらず、本年度はわが国の裁判例の動向を探るために裁判例を収集し、その内容の分析を踏まえた『判例回顧と展望』誌で契約に関わる裁判例の紹介を通じて、その全体像を掴むとともに、最新の状況を把握することができた。裁判例が大半を占あるとはいえ、各事案の特徴や、その問題の複雑さを再認識する機会を得ることができた。部分的解消法理の構築には、消費者としての法的地位の考慮も不可欠ではあるが、これをどのように結びつけるかは今後の課題である。他方、海外の動向に関して本年度も海外研究者の来日講演原稿の翻訳を積極的に行ったが、これらを公表することも次年度に予定している。特に、EUにおける契約法の統一をめぐる一連の動向について、より丹念に検討を続けたい。 本年度の研究実績によって、複合的契約関係における部分的解消法理に関する研究について具体的事例を扱うための準備は整いつつある。これらの実績を踏まえて、次年度の研究につながるように活かしたい。
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