今年度は、主として日本における物権行為論に焦点を当てて検討を行い、その上で、本研究の序論にあたる論文を執筆した。 その論文においては、不動産物権変動の場面を基軸としながら、わが国においても債権行為としての契約とは別個に物権行為概念を措定するべきか否かについて、理論的および実務的な観点から検討を加えた。 その作業の端緒として、まず、わが国における判例および学説の検討を行ったところ、わが国における物権行為の独自性をめぐる議論の特殊性が明らかとなった。すなわち、物権行為をめぐる問題は、これまで、物権変動が生じる時期の問題と密接に関連付けられつつ論じられてきたのである。しかしながら、両者は区別して論じられるべき性質を有しているという点を、今日においては指摘することができる。 そこで、次に課題とされるべきなのは、物権行為概念の必要性について直接的に検討を行うことである。理論的な問題として浮上してくるのは、わが国の民法典との整合性の問題であり、実務的な問題としては、取引当事者の意思を挙げることができる。前者については、わが国の民法典が物権債権峻別論を前提とするパンデクテンシステムを採用している点、後者については、外部的徴表が実務において重要視されている点を、それぞれ物権行為概念を措定することの必要性の根拠として見出すことができた。 今後の課題としては、まず、ドイツにおける物権行為論を検討する必要性がある。とりわけ、物権行為概念の創始者とされるサヴィニーの理論を徹底的に検討する必要があるといえる。
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