本年度においては、不動産取引における物権と債権の関係性について、意思と形式の両面から検討を行った。具体的には、意思の面として物権行為の問題を検討し、形式の面として仮登記の問題を検討することを通じて、物権と債権の境界が暖昧なものになっていることを明らかにした。 とりわけ、物権行為の問題に関しては、サヴィニーの見解を中心に分析を行った。サヴィニーの意思理論によれば、個人は、物的権利または人的権利を行使することができるのであり、その論理的帰結として、物的権利と人的権利を発生させるためのそれぞれ異なる意思が存在しなければならないことになる。したがって、サヴィニーにとっては、概念的で形式的な理由がそもそも存在したといえる。 しかし、同時に彼の理論は批判の対象ともなっている。すなわち、サヴィニーがローマ法を分離主義と無因主義の源として考えていた点、または、少なくとも源となる法制度を意図的に選択していた点は、サヴィニーの誤りであったとされている。というのも、ローマ法には、いわゆる物権契約概念は存在していなかったからである。また、意思理論から分離主義と無因主義を導き出すことも困難であるとされている。 このような観点からすれば、物権行為と債権行為の理論的関係を解明するための今後の課題として、意思理論や法律行為論一般との関係、さらには契約法理論との接合など、多岐にわたる問題点が残されており、次年度の具体的な検討対象としたいと考えている。
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