本研究においては、主として不動産取引の場面を念頭においた上で、債権行為である売買契約に基づいて物権変動の効果が直接的に発生すると解するわが国の判例および通説の見解に対して疑問を投げかけ、わが国においてもなお物権行為の独自性の意義について論じる可能性およびその必要性が存在することについて、ドイツ法を比較対象としながら検討を行った。 その結果、わが国においては、債権行為である売買契約とは別個に、代金支払い等の時点に物権行為がなされたものとした上で、その時点で物権変動の効果が発生するものと解する見解が、依然として説得力のある点を含んでいるのに対して、ドイツにおいては、逆に、物権行為概念の存在を否定するという見解も存在しているということが判明した。 これらの事実は、物権行為概念について依然としてその存在の当否に関して検討する余地が残されていることを明らかにしていると同時に、わが国における物権と債権の峻別という、当然のこととして是認されていた理論に対しても懐疑的な目を向けるきっかけを与えるものであると評価しうることを明確にしている。
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