本年度は、団体訴訟制度と憲法理論の関係、特に司法権の範囲に関する問題について検討した。 まず、司法権の範囲に関する近時の議論においては、公益に対する団体訴訟も、立法によるものであれば、裁判所法3条1項に言う「特に法律の定めのある権限」として認められるとされる。さらに、本研究においては、集合的・公共的利益に対する権利が私法上正当化されるのであれば、法律上の争訟として司法権の範囲に含まれる可能性は認められる、との結論に達した。ただし、昨年度の研究から、団体訴訟制度の実体法的な基礎は民事実体法理論のみならず行政実体法理論も融合させて構築させるべきとの結論が導かれているため、私法上正当化されたからといって、団体訴訟を認めるために憲法理論から立法は必要とされない、との結論は導き得ない。そして、ここでは最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁との関係が問題となる。この判決は、国又は地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではない、とした。学説の殆どが批判するこの判例を前提とするならば、行政実体法理論をも基礎において団体訴訟制度を構築するのであれば、司法権の範囲との関係で、憲法上、特別の立法が必要となる、との結論が導かれる。なお、行政実体法理論との関係では、「私人としての行政」という視点からの憲法上の問題にも目を向ける必要がある。
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