「選択発明と利用発明の特許性と保護範囲」という研究に関し、平成20年度は、補正と訂正について注力した。補正と訂正は、特許明細書の内容を出願後に変更する手続であるが、わが国特許法は先願主義を採用しているため、補正・訂正を無制限に認めると先願主義の趣旨に反することになる。したがって法は、補正・訂正を制限している。しかし、どこまで/どの程度制限されているかについては、ほとんど研究が進んでいなかった。これは、補正・訂正が技術的問題と密接に関係しているため、法学者の観点から研究が進みにくかったためと思われる。 研究代表者(吉田)は、法学者ながら理系出身の元弁理士であるため、独自の観点から補正・訂正に関する研究を進めた。主として裁判例を渉猟し、補正・訂正が認められるべき範囲を具体的に議論することができた。また、特許法17条の2第5項という、実務上は非常に重要ながらもこれまで法学者の手によってまったく研究がなされていなかったテーマについても、一通りの研究を行うことができた。また裁判例リストも作成し、後続の研究者の便宜を図った。 研究途中の平成20年5月30日には補正・訂正に関する知的財産高等裁判所大合議判決が出されたため、この判例評釈も行った。これらの研究成果は、今後の特許実務に対して少なくない影響を与えるものと期待している。
|