研究概要 |
平成20年度は, 以下の研究を中心に行った。 1. 独占権の相対化に関する現状分析を行なった。最近のビジネス環境においては, 独占権に依存するビジネスモデル(例えば製薬業界や音楽業界)と, 独占権に必ずしも依存しないビジネスモデル(例えばソフトウェア産業)への分化が鮮明に見受けられるようになってきたと指摘されている。確かに従来から, 著作権法における私的録音録画補償金請求権に見られるように, 独占権を相対化しようという試みは存在したが, それは知的財産法の中では局所的な動きに留まっていた。しかし, その後のデジタル技術やネットワーク化の進展, 産業構造の変化などにより, この状況は大きな変容を迫られつつある。そこで, かかる状況の変化を踏まえ, 本研究において対象となるいくつかのビジネスモデルを選定し, 当事者の関係や市場構造などを分析した。 そこでの問題点は, とりわけ著作権の分野で顕著であるが, 権利制限と間接侵害であることも明らかとなった。そこでは, 情報の捜索のみならず, 社会への伝播に関わる中間業者の位置づけを明確化することが次の課題となった。 2. 独占権の相対化に関する基礎理論的研究に着手する。その基礎理論的考察は, 主として2つの方向性からなされた。第1に, 独占権の相対化をめぐる問題は, 財産法の本質に関わることであり, Property Rules(PR : 財産法ルール)とLiability Rules(LR : 責任ルール)に関する研究である。従来の研究によれば, PRとLRを分ける分水嶺は, 取引費用(Transaction Costs)の多寡による。先に行なった具体的な産業構造等の把握を踏まえ, いかなる業界において, この原則がどの程度妥当しているのかについて, 基礎理論との兼ね合いの中で検証した。
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