研究概要 |
平成21年度は,知的財産法における独占権の相対化に関する研究を継続して行った。昨年度は,国内外において,いわゆるGoogle Bookの和解の問題がクローズアップされたが,これは従来の独占権モデルに風穴をあける可能性を秘めたものであったことから,この重要な問題に対する検討を行った。そこでのアプローチは,第1に,Googleが権利者と利用者の中間に位置する媒介者であるという視点を取り入れ,著作権と表現の自由の観点から考察すること,第2に,Google Bookの問題が国際的な広がりを持つことから,国際裁判管轄や準拠法などの国際私法の観点も踏まえて検討すること,である。 第1点目については,文化芸術活動の関係者の経済的基盤安定という国家がとりうる文化政策のポートフォリオの中で,著作権法は唯一の手段ではなく,国家による助成や民間でのフィランソロピーなどとの相関関係の中で,望ましい政策手段を達成するように制度設計がなされるべきであることが明らかとなった。 第2点目については,いったんGoogle Bookのデータベースが構築されると,全世界からの閲覧が可能となるため,全世界的な知的財産権侵害が生じる可能性がある。ここでは,知的財産権侵害の準拠法を決定するに当たり,ベルヌ条約加盟国150カ国以上の法を全て適用するべきか,それとも適用法規を単一に絞り込むべきかという「ユビキタス侵害」の問題が登場する。また,媒介者に対する責任追及に当たっては,権利者,利用者,媒介者という三者の表現の自由に関する利益が対立し,準拠法決定を直接侵害に引きつけるべきか,それとも媒介者の常居所地法を適用するべきなのかという点について,より深い理論的検討の必要性が明らかになった。
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