本研究は「エコシステム・マネジメントの法構造分析」と題し現代自然保護法の指導理念とは何か、自然保護の為の法的手法はどのようなものであるべきか等々を検討しようとするものである。そして計画二年目である平成21年度は、一部計画を修正し、前年度にひき続き日本法を分析対象とした。これは、広島県福山市沖の鞆の浦において紛争が生じた鞆の浦埋立免許差止め事件の議論が継続し、本案判決が下されたためである。同事件は景観利益論がメインテーマであるが、そればかりでなく、自然保護法やエコシステム・マジメントの見地からも重要な論点が含まれていると考えている。鞆の浦は都市景観としてよりも自然・歴史的景観の特有性に特徴があり、従来の景観利益論が都市景観を分析モデルとしていたこととの比較で重要な意義を有する。分析の結果、行政事件訴訟法改正の影響を受け、都市景観と自然景観を二区分する意義に乏しいものがあることを再度確認した。また地裁判決の裁量統制判断の中にはアメリカでの公共信託理論に通じる部分があり、次年度以降の比較研究という意味での有意義な視座を得ることができた。この点の研究報告を12月に名古屋大学行政判例研究会で実施し、それを踏まえた論文を3月前半までに脱稿した(「景観保護を理由として公有水面埋立免許の事前差止めが認められた事例(広島地判平成21年10月1日判例集未登載)」速報判例解説6号)。 次年度はアメリカ法の判例分析を中心に研究対象を客観分析する予定でいる。
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