電子ネットワーク上でのデジタル化個人情報の漏洩に関連する法的紛争を民事司法手続により解決する場合、デジタル情報の伝播と司法手続のスピード間の圧倒的な格差という本質的限界が存在する。故に被害者は紛争解決制度の利用中にもデジタル化情報の拡散による2次被害発生のリスクを抱え、提示されたソリューションの価値自体が大きく損なわれる場合すらある。以上の問題意識から本研究ではデジタル情報の即時伝播性に即した新たな紛争解決制度基盤の構築を目的とする。 20年度は、(1)事業者保管データへの自律型電子的自力救済実行モデルの詳細設計、(2)テキストデータへの自律型電子的自力救済プログラム搭載の是非を中心に、それぞれにつき、制度的側面と工学技術の最新動向を文献収集、関連各学会・研究会・セミナー参加によりキャッチアップすることにつとめた。また、紛争解決制度研究としての本研究の意義を問うべく、日本法社会学会学術大会において研究コンセプトを発表した。 全体を通じで、気付いたことは、かねてからわが国で毛民事訴訟の電子化への取組は行われており、司法分野へのICT利用の可能性を探る研究が進んでいる。かかる取組はまず、市民が日常生活で抱える事案をユーザーフレンドリーとリライアビリティをもって解決するためにICTを利用することを中心コンセプトとしており、本研究が想定するようなデジタル情報の即時伝播性が紛争の発生要因となっているタイプの事案は想定されていない。しかじ、これらめ研究は個人情報漏洩のような一般市民による自主的解決が困難な事案でもユーザーフレンドリーとリライアビリティの更なる向上に努めるべく、制度設計を煮詰める必要があることを改めて気づかせてくれた。
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