本研究は、17世紀の社会契約論と比較しながら、18世紀スコットランド啓蒙哲学における「公私」観念の特徴を明らかにするものである。本年度においては、平成20年10-11月にかけてスコットランドへと渡り、エジンバラ大学とグラスゴー大学を訪問した。両大学とも、スコットランドを代表する大学であり、その知的伝統に基づいて多くの歴史的な資料を保持している。これらの一次資料を手に入れるために、両大学の図書館にある「スペシャル・コレクション・センター」を訪問した。これらのセンターにおいては、W.R.スコットによる『アダム・スミスへのギリシアの影響』や「(アダム・)スミスと(ロバート・)バーンズ」といった新聞記事に至るまで、多くの資料を手にいれることができた。グラスゴー大学においては、「アダム・スミス研究基金」(Adam Smith Research Foundation)の共同代表であるクリストファー・ベリー教授(Prof. Christopher Berry)と面会し、17世紀の社会契約論と18世紀のスコットランド啓蒙哲学における学問的方法論の違いを確認することができた。また、スコットランド啓蒙哲学の諸理論における、「自己-他者」間の応答による「社会性」(sociability)の意義について知ることができた。 さらに、アメリカにおける公共哲学の分野をリードするハーバード大学のマイケル・サンデル教授を日本に招聘し、国際シンポジウムを行った。マイケル・サンデル教授は、現代リベラリズムの公共哲学となっている「手続的共和国」の形骸化を批判し、「自己統治」を基軸とする共和主義的な公共哲学の復権を主張したのである。
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