今年度における当初の計画は、これまでの調査結果を踏まえ、研究成果をまとめることであった。研究の進展により、新しいデータの収集と分析も行うことができた。具体的には、平成20年度に実施した東京都墨田区議会議員調査や東京23区議会の選挙結果を収録したデータ・セットに加えて、「市町村合併による選挙区規模の拡大が候補者の党派色の増大をもたらす」という仮説を検証するため、該当する全ての選挙を対象とするデータ・セットの整備を行い、分析した(松林哲也氏、上田路子氏との共同作業)。 墨田区議調査や23区議会データの分析結果により、本研究の仮説は概ね肯定的な結果を既に得ている(「なぜ政党は必要か-大規模な代議制民主主義と政党-」、2009年度日本政治学会報告)。この仮説をさらに精密に検証するため、合併を経験し、規模が拡大した自治体を新たに対象とすることにした。選挙区の属性など、政治的、社会経済的な背景の違いをコントロールできる、最も有効な方法と考えられるからである。 作業は膨大なものとなったが、共同作業のおかげで、2010年度の日本政治学会報告に間に合わせることができた(「選挙区規模と党派性・市町村合併を伴う地方議会選挙データによる検証」)。また、本研究はMidwest Political Science Associationの年次大会でも報告の機会を得た("The Size of Electoral Districts and the Importance of Party Labels")。現段階では大まかな傾向を明らかにしたに過ぎないが、合併の効果を検出することはできた。分析のさらなる精緻化を目指したい。
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