本年度の研究計画は、(1)現代フランス福祉国家の再編過程を、労働・最低所得・連帯経済という三つの政策領域から検討すること、(2)国際比較の視点を踏まえ、20世紀フランス福祉国家史をまとめることであった。 (1)フランス福祉国家の再編過程 2010年9月から10月まで、フランス国立科学技術センター附属モーリス・アルヴァクス研究所に客員研究員として滞在し、近年の最低所得政策、連帯経済の動向について資料調査を行った。さらに2007年右派政権下での改革をフランスの学者はどう見ているのかについて、セルジュ・ポーガムやロベール・カステルといった代表的論者にインタビューし、今日の議論状況を整理した。1970年代から今日までの家族政策についても検討した。これらを踏まえ、エスピン=アンデルセンの用いた「脱商品化」という概念を彫琢し、今日の政策上の対抗軸を、新しい経済状況への適応手法ではなく、「再商品化」(自由化)と「脱商品化」(個人化)の対抗に見いだす視角を設定した。これらの成果は「フランス福祉レジームの変容-自由化と個人化」というタイトルで、新川敏光編『福祉国家の収斂と分岐』(ミネルヴァ書房、2010年刊行予定)にて公表される予定である。 (2)20世紀フランス福祉国家史 英仏の思想的差異を踏まえて近年までの政策動向をまとめた「社会的包摂と自由の系譜」(→研究成果)を発表した。上記の「脱商品化」「再商品化」という視角の設定に合わせ、20世紀フランス福祉国家史全体をまとめなおす作業を継続中である。
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