本年度は、前年度に遂行した研究の成果報告を行うとともに、NGOなどの市民社会団体による「社会的説明責任」を求める活動が貧困削減政策の非政治化に与えた影響について、ブラジルのBolsa Familia政策に関する調査を行い、次のような結果を導くことができた。 1. 平成21年4月に米国のシカゴ市で開催された米国中西部政治学会(MPSA)、および同年6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロ市で開催されたラテンアメリカ学界(LASA)等において、前年度に実施した研究に関する成果報告を行った。 2. 労働党の現ルーラ政権下で2004年に導入されたBolsa Familiaは、メキシコのPROGRESAに類似した条件付現金給付型の貧困削減政策であり、2006年の大統領選挙前に受益者数が大幅に増加した。先行研究サーベイおよびブラジルの研究者との意見交換の結果、この受益者数の増加は、再選を目指すルーラ大統領が、貧困層の政治的動員のために行った政治的操作である可能性を完全に否定することはできないが、貧困削減という急務への対応であるとの見方の方がより妥当であることが示唆された。この点については、今後の実証課題であることが導かれた。 3. ブラジルの研究者、NGO関係者、連邦議会議員と意見交換を行った結果、(1) Bolsa Familiaの政治的操作への懸念よりも貧困削減効果の方が重要であること、(2)その一方で、政治的操作の防止に必要な財源配分および政策運営の監視における市民参加システムは実質的に形骸化していること、および(3)効果的な政策監視のための外部評価システムや市民社会勢力の参加の重要性について政策担当者は自覚しており、これに関連する制度構築は今後の課題として認識されていることが明らかになった。
|