平成21年度の交付申請書には、海外の研究者との交流、海外での研究報告を行うことを目標の一つとして記した。この点に関して、8月から9月にかけて、カナダのバンクーバー(主にブリティッシュ・コロンビア大学)を訪れ、以前から面識のある研究者と議論することができた。また当地では、カナダの人権教育、および人権啓発活動に関する資料も収集した。 9月半ば~後半には、北京で開催された国際学会・IVP世界大会に参加し、本研究の成果の一部を英語で発表した。特に、日本の学校での人権教育、および自治体らの行う人権啓発活動の特徴と、そこから導き出される文化的姿源を活用した人権教育のあり方に関する含意に焦点を当てた報告を行った。英語圏の政治理論の枠組みを念頭に置きつつ、日本の学校や自治体の人権教育・啓発活動のあり様を論じた研究はこれまであまり例がなく、文化(特に非欧米圏の文化)と人権教育との関係性を考える上で、新しい視角を提出することができた。 本研究の目的の一つである「人権教育の新たな理論的前提の探求」という点に関しては、21年度は共編著『ナショナリズムの政治学』および共著『現像社会論のキーワード』所収の論文を発表した。リベラル・デモクラシーと文化との関係性の理解が近年大きく変容していること、特に従来の前提であった文化的超越性・中立性が多くの理論家によって否定されるようにたってきたことを踏まえたうえで、新しい形でリベラルな制度の公正さを確保しつつ、リベラリズムの体系における文化的資源の占めるべき位置や果たすべき役割について論じた。また、特に共編蓍所収の私の論考では、いわゆるりベラル・ナショナリズムの政治理論のなかに人権をめぐる議論をどのように位置づけるべきかを示した。
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