本年度は、マルチレベルな選挙、すなわち、様々な統治レベルにおける選挙過程の特徴を比較の観点から明らかにすることを目的とした。研究成果は大きく分けて以下の3つの柱から成る。第一に、欧州議会選挙を通して欧州・超国家レベルの選挙過程を実証的・理論的に考察した。まず、欧州選挙研究(EES)の世論調査データを用いて有権者の投票行動を「二次的選挙モデル」(second-order election model)の観点から実証的に分析した(比較政治学会報告)。同時に、欧州議会選挙の選挙制度やその政党システムへの影響を考察した論稿を公刊した(『EU・欧州統合研究』)。第二に、連邦化が進んでいるベルギーをケース・スタディとして、言語圏・地域圏などの国家下位レベルの選挙過程に着目した。まず、ベルギー政治に関する論稿を公刊し、連邦化が持つ政党戦略への影響について考察した(『ヨーロッパのデモクラシー』)。また、政党の分極的な活動について紹介し(『創文』)、個別の事例として、極右政党の選挙キャンペーン戦略に関する分析を行った(日本ベルギー学会報告)。第三に、比較の視点から、日本の東京都議会選挙と衆議院選挙の直後にパネル世論調査を行い、地方レベルと国政レベルの投票行動の分析を試みた。調査を設計する上で、ヨーロッパにおける投票行動研究の成果を論稿としてまとめ、参考にした(『投票行動研究のフロンティア』)。また、今後の比較分析を進める上で、ブール代数分析に関する論文を発表した(数理社会学会報告、『理論と方法』)。
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