本研究は、他のヨーロッパ諸国で興隆した同時代の国家理性論や社会契約説と比べて注目されることの少ない後期サラマンカ学派(c.1576-c.1615、メディナからスワレス)の権力・国家論に着目し、それが近代主権国家秩序の形成に与えた影響を検討するものである。本年度は、前21年度とともに、この目的に沿って本研究課題をまとめる執筆期間と位置づけられている。すなわち、20年度に調査したラテン語、カスティリャ語原典に基づき、21年度に明らかにした後期サラマンカ学派の世俗権力観の全体像を、中世から近代に至る国家論の変遷という文脈に位置づけ、その意義を提示することを試みた。 具体的には、中世思想を代表するトマス、トルケマダ、カイエタヌスら、および近代理論を構築したマキアヴェッリ、ボダン、グロティウスらと対照させながら、同学派の特質を検討した。その成果は、別記の著書(分担著三冊、解説執筆一冊)、口頭発表論文(単著四本)として公になっている。同時に、これまでの研究成果を英語でまとめた著作(単著)の執筆を開始し、全6章のうち第2章第1節までを完成させ、校閲に付した。さらに、こうした成果の一部を国内外の研究者に送付することによって、研究のさらなる進展のためのコメントを得る機会を得た。 以上の作業により、西洋政治思想史における後期サラマンカ学派の権力・国家論の意義が明らかになり、次年度の最終成果発表のための基盤がととのった。
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