2年目にあたる平成21年度は、ポスト冷戦期の北朝鮮が「先軍」概念に基づいていかなる体制を構築していったかを中心的な問題意識に据えて検証を進めた。例えば、1998年の憲法改正以来、「国防委員会」中心の国家運営が行なわれているといわれ、2009年には11年ぶりに憲法が改正されその役割が名目上も高められたが、同機関に関する先行研究はほとんど無いといってよい状況にあった。『労働新聞』等の北朝鮮公式メディアによる報道を精査した結果を「内部資料」や脱北者証言、外交当局者証言等と突き合わせることにより、「先軍」政治体制の姿を描けるよう心がけた。その結果は、日本国際政治学会全国大会東アジア分科会で報告した。さらに、「国防委員会」と他の国家機関、党機関との関係を実証すべく研究を進めたが、この点については資料的限界もあり平成22年度以降の課題としても残った。より具体的には、党中央委員会よりも国家機関たる「国防委員会」を重視し、「政務院」を「内閣」に改編した等の事実につき、「先軍」概念登場との関連性をより深奥に探求する必要がある。 また、体制分析において重要な視点とされる「リーダーシップ」の観点からも金正日体制の検証を進めていった。北朝鮮のような独裁体制では最高指導者の「リーダーシップ」検証が不可欠のため、金日成主席から金正日氏への第一次後継者問題、金正日氏から三代目に向けた昨今の第二次後継者問題の経緯を中心に、北朝鮮公式メディアの論調変化で読み解く作業を進めた。その結果の一部は論文として公刊した。
|