本年度の研究は「帝国」化の現れとして国民国家の変容過程を描くことに重点を置いた。本課題の達成のため、まず研究協力者の協力を仰ぎつつ、大学・分野横断的に研究者を招集し、三つの研究会、(政治哲学研究会、デモクラシー研究会、帝国勉強会)を立ち上げることに尽力した。その上で、具体的には「統治性」の概念をさらに主権と生権力に分節化して、権力論の観点から再編してアプローチを行った。別々に議論される事が多かった主権論と、福祉国家・社会研究の接点を切り開くことに成功していると思われる。この研究成果については、研究代表者が非公式の研究会における報告を重ね、さらに「承認をめぐる権力論」を導入する事を通じて国民国家の構成とその変容に権力論の観点から接近するととが可能になったと思われる。成果については、既に論文化が完成しているが、複数の研究者の論考と共同して本として広く世間に問うため、2021年秋に本として出版予定である。特に生権力と承認をめぐる権力論というアプローチは、世界恐慌へと深刻の度を深める世界経済情勢に伴う世界秩序の変容を考える上で示唆に富むものと思われる。具体的には社会的分断の加速化であり、情報やデータ、論考の收集に多くの時間・労力を割くことになった。また同時に研究課題のもう一つである欧州の思想的配置からの民主主義論についても、D・ミラー、J・ハーバーマス、A・ネグリの政治理論を現代世界の秩序の変容との緊張関係のから再検討する作業を進め、春から雑誌に順次掲載予定である。加えて、本研究成果の中間報告ともいうべき「帝国」化と民主主義論の整理について、単著として出版する計画に取り組む予定である。
|