本年度の研究成果は、研究目的の達成のための、「帝国」化を分析する理論枠組みを構築することと「帝国」化に対する民主主義理論の構築に分けられる。 第一の目標については、大学・分野横断的に研究者を招集して立ち上げた研究会(政治哲学研究会、デモクラシー研究会)を基盤に、「帝国」化による主権・生権力・承認権力の三つの権力の変容について考察を進めた。「帝国」化の特徴の一つである格差社会化の進行については世界経済危機との関連を念頭に、福祉国家レジーム論などの先行研究を踏まえ、citizenship論の観点から、2010年5月に政治思想学会の研究大会で報告(学会発表欄参照)を行った。報告を元に執筆した論文は受理され、来年度には学会誌において公刊する。 また「帝国」化に対応する民主主義の理論の構築についてはD・ミラー、J・ハーバーマス、A・ネグリの政治理論を再検討する作業を進めた。成果としては、世界秩序の構造変動を「帝国」化の観点から把握し、一国レベルでの自由民主主義の限界と意義、そして新たな国境を越える民主主義の必要性とその困難について明らかにすることができた。具体的成果としては昨年度以来、連載形式で取り組んできた論文を完結させた(「雑誌論文欄)参照) 加えて、上記のデモクラシー研究会において、共同論文と、包摂と排除の観点から現代民主主義論の比較を行った論文を脱稿しており、来年度には共著として公刊する。また政治哲学研究会での研究も進み、中東・アフリカ地域の研究者との協力を得て、「中東・アフリカ革命」の要因の一つとして指摘されている世界経済システムの問題点について、私的所有制度の暗黙の前提の考察と民主主義の観点から考察を行った。その成果は4月以降に共著として公刊される予定である。 また、本研究成果の総括ともいうべき「帝国」化と民主主義論の関係をめぐる著作を公刊する。
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