平成20年度の研究では、現代における世界市民権(法)と世界市民社会の可能性を構想すべく、カントのコスモポリタニズム論の基盤にある哲学的人間像を探ることを目指した。研究は英語で行われ研空全体の最終成果として英語研究書籍の形で出版することを目的とする。 研究成果は2点。1点目は、2つの論文の出版決定。1つはカントが理性と非理性の分割を無効にする議論をしていることを示した論文で、欧米圏の学術雑誌(英語。査読有)に掲載決定(掲載は平成21年度)。この論文の意義・重要性は、従来の研究中カントにおける人間像として想定されてきた「自己の行為に一貫した合理的反省的説明を与えることの出来る主体」とは異なる、人間の合理的生活形式の脆さ不透明さ危うさへの感受性と受容性に裏付けられた人間像をカントの議論に見出した点にある。もう1つの論文は、カントの世界市民権についての議論を昨今論じられる東アジア共同体という考えと絡めて論じたもので、英国の出版社から出版される研究書籍所収の1つの章として出版決定(出版は平成21年度)。この論文の意義・重要性は、カントが世界市民主義において他者関係での感覚・感受性・感情(feehng)を重要視していることを指摘した点にある、というのもこの論点はカントが繰り返し強調するにも関わらずあまり論じられてこなかったからである。 研究成果の2点目。上述のように研究全体の成果として英語研究書籍という形での出版を目指す。書籍は六章構成を予定、平成20年度の研究では2つの章の初稿を執筆した。平成20年度以前に執筆していた部分と合わせ、書籍原稿全体の八割程度の初稿が完成している。
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