平成20年度は、19世紀フランスにおけるレイシズムについて、その現代的意味をつねに問い直しながら研究を進めた。二度にわたりフランス(国立図書館)にて資料収集を行い、アルチュール・ド・ゴビノーとエルネスト・ルナンのレイシズムについて関連資料を閲覧・収集した。とくにゴビノーについては、従来からナチスの人種政策への影響が指摘されてきたため、ドイツ(フンボルト大学)においても関連資料を収集した。 その成果として、論文「レヴィ=ストロースとゴビノー--レイシズムをめぐって」(『思想』岩波書店、1016号)を公表することができた。この論文は、ゴビノー的思考様式の中心を「差異主義」として抽出したうえで、その今日的展開の一例として、人類学者レヴィニストロースの言説を検討したものである。一般に「文化相対主義」の提唱者として知られるこの人類学者が、なにゆえにゴビノーの思想を高く評価しているのか、また「文化相対主義」が必ずしも「他者への寛容」を帰結しないのはなぜなのかを、両者の言説を比較検討することによって明らかにした。さらに、共著『歴史・思想からみた現代政治』(法律文化社)において、近年台頭した新自由主義のロジックが、経済領域のみならず日常生活のすみずみにも浸透した結果、新しい形のレイシズムが登場していることを示唆した。すなわち、異質な他者を同化するのではなく、むしろ徹底的に他者を監視し、異質なものは排除するという権力への転換である。 このように平成20年度の研究を通して、レイシズムの持続/変容について理解を深めることができた。
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