平成21年度は、19世紀フランスにおけるレイシズムについて思想史的研究を継続しつつ、現代における「人種差別」の発現形態に注目しながら研究を進めた。 その成果のひとつとして、日本国際文化学会(2009年7月5日・佐賀大学)において「新自由主義時代における国家/権力の変容」と題した口頭発表を行った。1980年代以降の福祉国家の行き詰まりを受けて、いわゆる「新自由主義」の発想・政策が世界を席巻した。それとともに権力のモードは、ミシェル・フーコーの定式化した「規律=訓練(ディシプリン)」から、ジル・ドゥルーズの示唆した「管理(コントロール)」へと移行したと言われる。その過程において、人口の流動性あるいは生そのものの流動性を前提としたうえで、かつての生物学的なレイシズムに代わる新しいレイシズムが台頭している。もはや権力は、人々に規範の内面化を強制するのではなく、その行動の外面的形式にのみ関心を集中させ、「リスク」の類型化を図る。その結果、たとえば「20歳代、男性、無職」は要注意人物としてプロファイルされるというわけである。こうした新たな境界線は、狭義の人種のみならず宗教・文化・出身地による差異化をとおして、特定の人々を内側に囲い込み、あるいは外側に排除することになるだろう。そのような発想のある種の原型として、19世紀フランスのレイシズムは捉えることができるし、また批判されなければならない。 以上のように平成21年度の研究を通して、レイシズムの持続・変容について理解を深めることができた。
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