本研究計画の初年度はイスラエルの外交政策と世論の関係について基礎的な研究を進める予定であった。この計画は達成されているが、一方でイスラエルが敵国からどのように見なされているのか、という観点からの研究を進めることにも成功した。この成果は青山弘之との共著論文「シリア国民の「政治的認知地図」」として結実した。 この成果はシリア・アラブ共和国で初めて実施された大規模な対面形式の世論調査データを用いて、シリア国民の国際政治認識すなわち自国と敵国であるイスラエルの相対的な位置づけを可視化し、彼らの認識を成立させていると思われる諸要因がどの程度規定しているのかを回帰分析で明らかにしたものである。 なお当初計画に従って、イスラエルの外交政策ならび国防政策、そして国際政治学理論や分析ツールに関する基本書籍は整備されつつある。同時に2008年12月の現地調査によって2006年の第二次レバノン戦争に関する現地語資料を収集した。また世論調査データに関しても現地調査機関の協力によって集計された時系列情報を入手することができた。 これらの資料を踏まえて現在、抑止理論を基礎にしたイスラエル世論の戦争支持の持続を進化ゲーム理論でモデル化した論文を執筆中である。世論を構成する国民ひとりひとりをエージェントと考えたとき、全体のダイナミックスを把握する上で進化ゲーム理論は格好のツールである。また通常の非協力ゲームではなく、進化ゲームを応用した国際政治研究はあまり例がないため、政治学方法論の立場からも新局面を切り開くことが可能だと自負している。
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