「研究の目的」および「研究実施計画」で述べたとおり、私の研究目的は最終的には、スエズ戦争遂行を決定したイギリス政府の認識を分析することであるが、フランス政府、とりわけフランス軍部の動向を探ることはその準備段階として極めて重要な意義を持っていると考える。 この考慮に基づいて、本年度は主にパリにおいて、スエズ危機において主要な役割を果たした政治指導者の個人文書を閲覧・収集した。具体的には、当時のフランス外務大臣クリスチャン・ピノーの文書など(フランス公文書館の所有)である。フランスは外交文書の公開が遅れており、特にスエズ危機に関しては外務省の文書はほぼ非公開である。さらに、現在フランス外務省の文書館は移転工事中のため閉鎖されている。このため、研究を進めるうえでは個人文書が極めて有益であり、私は昨年よりこの文書の公開をフランス政府に要請してきた。またフランス軍部の資料については、パリ近郊のヴァンセンヌにある資料館を訪問しだところ、同様に閲覧申請が必要であることが判明した。このため私はフランス陸軍省に申請書を提出した。加えて、ロンドンでは当時イギリス外務大臣であった、セルウィン・ロイドの個人文書(F0800シリーズ)を収集した。 これらの文書は、いずれもスエズ危機およびスエズ戦争において英仏が対エジプト戦争を敢行した理由を分析するのに不可欠なものである。これらの成果をもとに私は、大学紀要『一橋法学』での論文発表や学会・研究会での口頭報告を行った。口頭報告はスエズ危機そのものを扱ったものではなく、フランスの対北アフリカ政策を扱ったものである。しかしスエズ戦争の際のフランス政策は主に北アフリカ情勢への考慮に基づいて策定されていたため、このテーマでの研究はスエズ危機・戦争の背景要因を分析する上で不可欠である。
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