平成22年度は、9月にロンドンとエグザン・プロヴァンス、2月にロンドン・パリで調査を行った。それぞれ、イギリス政府による対中東政策の立案の過程、またフランス政府による対北アフリカ政策に関する資料を招集した。ロンドンではイギリスの公文書館(TNA)を訪問し、エグザン・プロヴァンスではフランス海外領土省資料館を訪問した。またパリでは、郊外に移転したばかりのフランス外務省史料館を訪問した。すでに2006年に資料は調査済みであるが、その後に新たに公開された資料を収集した。現在も新しい資料が公開中であり、今後再度訪問の必要があることが判明した。 平成22年度中に業績を公刊することはできなかったものの、同年度中から現在まで、フランスの対チュニジア・モロッコ脱植民地化政策に関する著作(単著)と、国際関係論概論の教科書を執筆中である。第一の単著については直接スエズ危機を扱うものではないが、1950年から1956年の時期を扱っており、1955年と1956年に関してはチュニジア・モロッコ情勢は中東情勢と大きく連動して展開した。このため、本年度にスエズ危機に関して収集した資料も用いて著作を執筆している。また、第二の教科書についてはアフリカに関する章を担当する。これも直接、スエズ危機を扱うものではないが、スエズ危機は1950年代後半から本格化するアフリカ植民地の独立に大きく影響を与えた。スエズ危機がアフリカ新興国の独立を促したことはよく指摘される。しかし実は、新興国の独立は経済的自立を伴うものではなく、実はこのことはスエズ危機の処理のされ方と密接な関連があるというのが私の仮説である。概説書であるとはいえ、このような研究成果に基づいて執筆を進める。
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