本研究の目的は、イギリスは欧州統合に「消極的」であるとする通説を、国際通貨ポンドの欧州における位置づけという観点から再検討することである。本年度は、イギリスのEPU加盟問題を、加盟における英政府の意図、英米政府間での見解の相違に着目しつつ分析を進めた。史料収集は、米国国立公文書館、英国国立公文書館で行った。特に中心とした課題は、EPU加盟における英政府内部の議論と、ECAとの利害の不一致、そして英政府がECAに特別援助を認めさせるに至る経緯を分析することである。1949年後半からOEEC諸国は新しい決済同盟の可能性を検討し始め、英政府では英銀、大蔵省の意見を反映した英案を提示することとなったが、その特に重要な部分は、国際通貨としてのポンドの役割と、国内経済への影響を考慮し、既存の二国間協定の維持、輸入数量制限行使等を認めさせようとする点であった。とりわけ完全雇用政策が脅かされる場合には、迷わず自由化政策の停止を選択するという強い姿勢が見られた。これに対しECAは、戦前のような自由主義が実現される単一市場の第一歩となる決済同盟を望みながらも、自由化の負の影響を調整する目的で中央当局を設立することにより、各国の経済政策を調和させることを想定していたのであった。そのため、自国経済を欧州経済の動きから完全に切り離そうとする英案が国際主義的ではないと批判を加えた。最終的には英政府はポンド残高問題に対する支援、加重票の付与、といったイギリスに有利な条件をアメリカから勝ち取ることで、EPU加盟に踏み切ることとなる。これらの内容について論文投稿準備中である。
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