研究初年度である平成20年度は、西欧と米国におけるイスラーム教徒の思想動向を表す文献資料の収集に専念した。特に、英国、スペイン等のモスク、宗教文化センター、ムスリム・コミュニティ・センターを中心に流通するコミュニティ新聞や、頒布されるパンフレット、DVDの収集が進んだ。また、これまで移民ムスリム研究でそれほど注目されていなかったスイスにおけるイスラーム教徒移民の統合をめぐる問題を扱った有用度の高い会議報告書を入手したことは、現地調査の一つの成果であった。 西欧イスラーム教徒の、西洋近代自由主義に対する思想的な挑戦をめぐる分析の成果を、『イスラーム世界の論じ方』に収録して刊行した(平成20年11月)。収集した資料の分析の一つの課題となったのが、米国オバマ大統領がイスラーム教徒の血を引き、イスラーム法学上はイスラーム教徒である点をめぐって議論が提起されていたことである。米国と中東の双方のメディア上で行われた議論を分析した結果、少数派イスラーム教徒がイスラーム法学上もたらす潜在的な政治的対立と、米・欧の社会規範上、イスラーム教徒が政治指導者になることに関する拒否感情とその論拠づけを明らかにすることができた。また、フィリピン、中国にも視野を広げ、少数派の立場にあるイスラーム教徒にまつわる各国・国際政治上の問題と紛争を分析し、本研究計画の初期段階の成果とした。
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