本研究では、欧米や日本などで近年発生した金融危機の解明に役に立つような新たな理論モデルを構築することを目的とする。特に、限られた情報の中で、人々が他の人々の行動から情報を引き出す合理的活動が群衆行動を引き起こし、それがバブルとその崩壊につながる過程について明らかにすること、そしてその中で情報と予測の相互作用について明らかにするのが本研究の目的である。今年度は特に、「ケインズの美人投票」と呼ばれる現象に着目し、研究を進めた。ある金融資産のファンダメンタル価格が有限期間先に判明するとしよう。もしも市場参加者が長期的視野を持っているならば皆ファンダメンタル価格についての予測を立てれば良い。しかし、現実の経済がそうであるように、多くのトレーダーは金融資産のキャピタルゲインを追求する。つまり、金融資産を購入する動機は、それを他のトレーダーに後日売却することになる。このようなトレーダーは、ファンダメンタル価格よりもむしろ、他のトレーダーがその金融資産の価値をどう評価しているかを重視することになる。このような期待形成のことをHigher-Order Expectations(HOE)」と呼ぶ。今年度はこのHOEが資産価格にどのような影響を与えているかについて探求した。先行研究によると、HOEにより、資産価格はファンダメンタル価格よりも構造的にかい離することが示されている。本研究ではこの分析に情報の非対称性を追加した。つまり、トレーダー間で情報保有量に格差があるのである。その場合、情報を持たないトレーダー達は市場価格から得られる公開情報に頼って取引を行うことになる。本研究では、そのような市場において市場価格が持つ情報伝達能力にどの程度影響があるか、またそれがHOEとどのような相互作用を生むかについて分析を行った。本研究は主に共同研究として進めており、ほぼ当初の計画通りに進んでいる。
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