本研究の目的は2部門最適経済成長モデルの最適経路の導出及びその動学を分析することであるが、21年度の研究成果としては特に以下の2点をあげる。 1. 最適経路の動学を分析する上で、MV線の傾き(経済に存在する全ての生産要素を使用したときの資本ストックの今期と来期間の限界変形率を表す)が重要であったが、この傾きが1よりも大きいときに最適経路が有限期間内に黄金律へ「ジャンプ」する要因を明らかにした。ジャンプとは資本と労働を全て使い切るような生産プランからはずれて、資本ストックを黄金律へと調整することである。このジャンプに伴うバリューロスは労働もしくは資本の価値と、ジャンプの大きさ(どれくらい資本を調整すればよいか)により決定づけられることが分かった。ジャンプを将来へ遅らせるほど調整するべき資本の量は大きくなり、将来の効用を割り引かないケースでは、労働・資本の価値に応じて、第1期もしくは第2期にジャンプすることが最適となる。これらの結果は将来の効用を割引くケースの最適経路を導出する上で有益であり、割引率の大きさに加えて労働と資本の価値、ジャンプの大きさが最適経路を決定付けるうえで重要となることは明らかである。 2. 将来の効用を割引くケースは最適経路が複雑になるため、パラメターに具体的な値を与えモデルを簡単化し、さらにKhan-Mitraによる幾何学的手法を用いることで、最適経路にサイクルが起こる(最適経路が周期解に収束する)条件を明らかにした。サイクルの存在に関する先行研究の結果と、本研究で得られた幾何的な結果の関連付けは次の課題であるが、サイクルに関する研究分野において幾何的な条件を導出した点は新たな貢献といえるであろう。
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