研究概要 |
完備情報でのメカニズム・デザインで問題となってくるのは,複数均衡問題と協調の失敗の可能性である.複数均衡があれば,社会目標をうまく遂行するメカニズムを理論的に設計できたとしても,実際にそのメカニズムを使用すれば協調の失敗が生じる可能性があり,現実的には社会目標を実行することができるかどうかはわからない.そこで,本研究は,Schelling ("The Strategy of Conflict" (1960))のフォーカル・ポイントの概念を使うことで,協調の失敗を防止し複数均衡問題を解決することができるかどうかを被験者を用いた実験で検証することを目的とした.本研究では完備情報モデルを念頭においているので,プレイヤーたちはお互いの選好についてよく知っている状況にある.このような状況であれば,複数個の均衡の一つとして,全員が正直に選好を表明する均衡があるとしたら,その均衡がフォーカル・ポイントになる可能性が高い.この点に着目し,同一の社会目標を遂行するメカニズムとして,複数均衡の一つとして正直均衡を持つメカニズムと持たないメカニズムを設計し,どちらのメカニズムの方が高い均衡達成率を示すかどうかを検証する実験を平成20年度に実施した.平成21年度は,この実験データの検定を行った.その結果,複数均衡の一つに正直均衡を持つメカニズムの方が有意に高い均衡達成率を示すことが明らかになった.この結果から,協調の失敗は,複数均衡の一つに正直均衡を持つメカニズムでは現実的にも防止できる可能性があることがわかった.
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