21年度は既存研究の調査・精査に注力し、論点の整理を行つた。仮説A(関係的契約の下では、契約事項が「契約書」に縛られていないため、不確実な事態・追加的な情報に対して柔軟に対応可能であるが、フォーマルな契約の下では柔軟な対応がより困難になる。すなわち、フォーマルな契約を書くことによるコミットメントの費用が生ずる可能性がある)について、調査によって以下のような点か明らかになってきている。シンガポール経営大学のLee教授の最新研究によれば、企業共謀の文脈において部分的に契約を書くことにより、企業間の虚偽報告の範囲を狭めるという効果があるため、コミットメントを行うことが関係的契約のもとでもかなり有効であるということが示されている。すなわち、事後的な柔軟性による効率化と虚偽申告による非効率化という問題は深く関連しており、これらのコストとベネフィットを定量化できなければ明確な結論が得られないという論点が明らかになってきている。 また仮説B(フォーマルな契約には、関係的な契約では発生しない種類のコスト-契約の作成・モニタリング・執行のための追加的な費用-がかかる可能性がある)については、調査によって以下の点が明らかになってきている。第一に、フォーマルな契約を書くことの物理的費用は優良なエージェントであるこどのシグナリングとしての役割を担っている可能性があること。また、事後的モニタリングの精度や、関係的な契約の不履行時の事後的費用を高めることから、努力水準の欠如に対する処罰を大きくする可能性があることなどである。これらのコストとベネフィットについても理解をさらに深める必要があることが明らかになった。
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