研究概要 |
岡山大学経済学会雑誌に掲載した論文では,開放マクロ経済学でよく用いられる伝統的なMundell-Flemingモデルの2階の微分方程式による動学版を2つの方向に拡張し,そこから得られる動学的な特性を調べた.第一の拡張は,定常状態での局所的なMarshall-Lerner条件を維持しつつ,大域的にはそれが維持されない状況を定式化した.より詳しく言うと,定常状態の近傍では小国である自国通貨の減価は純輸出を増加させるが,為替レートがその近傍を越えると,逆に自国通貨の減価が純輸出を減少させるという状況である.これは,純輸出関数が為替レートに関して,非単調性をもつことを仮定している.第二の拡張は,大国である外国,あるいは世界経済が持続的かつ周期的な景気循環に曝されている状況をモデルに組み入れることである.これは外生的な外国の利子率が時間に関してcos関数として表される周期関数になっているというように定式化する.このような設定のもとで,為替レートが自国通貨高均衡と自国通貨安均衡のそれぞれの周囲を不規則に経巡るような複雑な変動を生じることを数値シミュレーションにより発見した.興味深いのは,利子率の変動で表現される世界経済が周期的に変動するなかで,為替レートが非周期的な変動をすることである,このメカニズムはこの論文では完全には解明されていないが,Duffing方程式との類似性より,対応するポアンカレ写像で生じる同宿分岐(homoclinic bifurcation)によるものと予想される.このようなモデルによる為替レートの変動に関する議論はおそらく他の著者によっては分析されていないので,より詳細に研究する価値は大いにあると期待できる.
|