研究概要 |
「国有化と産児制限によるカオス的経済成長の安定化について」と題された論文では,政府などの国家機関による資本の所有(資本の国有化)を考慮した世代重複モデルを分析した.そこで持続的な内生的変動であるカオス的挙動が現れることが,形式的に同等なモデルを分析した著者による先行研究(Journal of Economic Dynamics and Control,2000)により知られている.今回の論文では,人口成長率を政府が小さい範囲で微調整できるという前提のもとに,カオス的成長軌道を定常的な黄金律成長軌道に誘導する方法が示された.その方法はOLG法と呼ばれる.非経済学における非線形分野では知られた手法であるが.経済学ではほとんど注目されていないため,今後,経済変動における非練形性の役割の重要性が再確認される過程で注目される可能柱がある.「消費税を財源とする少子化対策と持続的世代間格差に関する予備的考察」と題する論文では,出生率(人口成長率)を内生化した世代重複モデルを分析した.そこでは,消費税で賄われる,政府からの補助金の額に応じて,高い出生率か低い出生率かの二者択一を行う家計を考慮した.その結果,ごく単純な2期間のCobb-Douglas型の選好と生産技術のもとでも.ある消費税率の範囲で周期的あるいはカオス的な内生的変動が現れることが数値計算により示された.また,カオス的変動下では,世代間の厚生に格差が生じることも示された.特にカオス的変動下での厚生分析などはこの文脈での先行研究は筆者の知る限り皆無であろう.現段階は予備的で,荒削りなモデルであるが,より精緻なモデルでも類似な結果が予想される.
|