標準的な経済学では、個人の選好は時間を通じて変化しないと想定されてきた。しかし経験的には個人の選好は時間を通じて一定とはいえない。たとえば今日低カロリーな食事をしようと決めた個人が、明日には高カロリーな食事から誘惑を受けてしまうことなどが挙げられる。異時点間の選好変化が選択行動の非整合性を生むことを説明するモデルとして、Gul and Pesendorfer(2001)の誘惑と自制のモデルがある。本研究ではGul and Pesendorferモデルには取り込めない次の行動を説明するために、彼らのモデルを一般化することが目的である。(a)誘惑とリスクの関係 : 同じく誘惑的な選択肢であっても、それが確実に得られる場合と確率的に得られる(リスクを含む)場合とでは誘惑の度合いが異なり、したがって自制の程度も異なってくる可能性がある。(b)無関係な選択肢からの独立性 : 誘惑と自制の行動では、通常の選択理論と異なり、最終的に選ばれなかった選択肢(無関係な選択肢)がその選択に影響を与える可能性がある。本年度は主に課題(a)に関して、Boston UniversityのJawwad Noor氏と共同研究を行った。既存モデルを一般化した効用関数を考え、課題(a)で挙げられた直観的な人間行動を説明できることを示し、かつその効用関数の公理的特徴付け(表現定理)を与えたことが主な成果である。モデルに公理的基礎(観測可能なデータに基づいた条件付け)が与えられることにより、実験や実証によりそのモデルを検証することが可能になるという意義がある。
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