本研究の目的は、金融市場の効率性と金融政策の有効性との関係を明らかにすることである。今年度は、次の4点(「研究の目的」の(2)、(3)に相当)について分析した。 第1に、1970年代以降の銀行データを用いて、国内銀行は横並びの貸出行動をとる傾向をもつことを明らかにした。また、彼らの横並び行動は実体経済に対して負の効果をもつことを明らかにした。これによって、日本の銀行貸出市場の非効率性を示すことができた。 第2に、1990年代以降の経済データを用いて日本経済の総需要の利子弾力性を推定し、金融市場の悪化とともに総需要の利子弾力性が低下していたことを明らかにした。これによって、当時の金融環境のもとでは、利子率コントロールによる金融政策の経済的効果は低下していた可能性を示すことができた。 第三に、非効率な金融市場のもとで合理的期待均衡を一意に安定させる(determinacy)ために必要な金融政策の条件を明らかにした。その結果、将来のインフレ予想に応じて利子率をコントロールする政策ルールは、現在のインフレ率の動きには反応しないため、均衡を一意に安定させることができない可能性があることを明らかにした。これによって「インフレ・ターゲッティング」などインフレ率に反応する政策ルールが金融市場の悪化において必ずしも有効ではないことを示すことができた。 最後に、人々が「適応的学習」(adaptive learning)によって期待を形成する環境のもとで、均衡の一意性を保証する金融政策の条件を明らかにした。その結果、人々の保有する情報が互いに異なるほど、金融政策に課される条件が緩和し、それだけ中央銀行は自由な政策運営が可能になることが分かった。 以上の研究は、国内外の学会・研究会での発表を通じて内容を高めていくことができた。その成果の一部は、国内学術雑誌で公刊することができた。その他の成果は、ワーキング・ペーパーとして公刊し、国際学術雑誌に投稿することができた。
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