本年度は、アイスランドで開催された第35回Hume Conferenceにおいて「"The Philosophy of Our Passions" in Hume's Economic Thought」というタイトルで報告を行った(コメンテーターはMaria Pia Paganneli氏)。本報告は、ヒュームの情念論を手掛かりに、彼の価値論・外国貿易論・公債論の意義を検討するというものである。経済現象に対するヒュームの基本認識は、一般の人々の情念の動きを前提にしていること、具体的には、1) 価値論ではスミス的な労働価値説とは異なる需要サイドの心理学的効果、2) 経済発展の契機については外部(外国)からの刺激、3) 公債論においては将来の負担より現在の個人的利益を優先する態度などへの注日が、ヒュームの情念論を前提にしていると論じた。なお、情念論においても、退蔵した貨幣になぜ人々は快を感じるのか、ということが考察されており、初期のヒュームにも経済現象への強い関心がうかがえる。こうした情念論の視覚は、人々の日常的な行動をヒュームが論じる際に、manners論への心理学的な基礎を与えていると考えられる。本報告をアイスランドで行う前に、イギリスのオックスフォードに滞在し、関連資料を収集した。また、9月よりオックスフォード大学に客員研究員として滞在しており、歴史学部のJohn Robertson氏からの助言を受けつつ、本報告を含めたヒュームのmanners論に関する18世紀の文献資料の分析し、本報告では不十分であったアダム・スミスとの違いを中心に検討を続けている。また、本研究課題の一環としてヒュームの論説の1つ「完全な共和国に関する一案」についての論文も執筆中である。
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