本年度は、輸送費(財・サービスの国際取引における様々な障壁を含む)の低下にともなう国際的な市場統合の進展が産業立地パターンと各国の経済厚生に与える効果について分析を行なった。以下は本年度の主な研究成果である。 (1) 氷塊型輸送費をともなう独占的競争型中間財貿易モデルにおいて、中間財輸送費の低下が産業立地パターンと各国の経済厚生に与える効果について分析を行なった。本分析では、輸送費がある水準より低くなると、最終財輸出国における中間財生産の一部が潜在的に同財の生産に比較優位をもつ最終財輸入国にシフトすることが示された。また、このような中間財産業の立地パターンの変化は、最終財輸入国の経済厚生を改善する一方で、最終財輸出国の経済厚生を悪化させる可能性があることが示された。 (2) 氷塊型輸送費をともなう独占的競争型貿易モデルに外部的規模の経済を導入し、工業品輸送費の低下が産業立地パターンと各国の経済厚生に与える効果について分析を行なった。本分析では、輸送費がある水準より低くなると、潜在的に全く同一の二国であっても、一方は工業国となり、他方は農業国になることが示された。また、工業化した国の経済厚生は工業化前よりも改善され、農業生産に特化した国の経済厚生は長期的には特化前よりも改善されるが、特化直後の経済厚生は直前の経済厚生より悪化する可能性があることが示された。 これらの分析結果は国際的な市場統合の進展がもたらす経済効果を明らかにしており、あらゆる財・サービス部門において単一市場化が進む今日において重要な政策的判断基準を与えるものと考えられる。
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