本年度は、生産外部性下の市場統合と国際分業に関する理論的研究に従事した。本年度の研究成果は以下の通りである。 1.外部的規模の経済をともなう独占的競争型貿易モデルにおいて、輸送費の低下が国際的な産業立地のパターンと各国の経済厚生に与える効果に関する分析を行った。本研究では、輸送費がある一定の水準を下回ると、いずれかの国で急激な産業集積が生じ、集積が生じた国では経済厚生が改善されることが示された。さらに、外部的規模の経済の効果が十分に大きい場合には、空洞化が生じた国においても経済厚生が改善されることが示された。これに対し、金銭的外部効果に焦点を当てた従来の新経済地理学モデルでは、空洞化が生じた国の経済厚生は必ず低下することが示されている。よって、本研究で得られた結果は、従来の新経済地理学モデルの結果とは一線を画するものであり、十分な学問的価値を有すると考えられる。 2.汚染を原因とする産業間外部不経済をともなう独占的競争型貿易モデルにおいて、貿易自由化が各国の生産パターンと経済厚生に与える効果に関する分析を行った。本研究は、工業生産が汚染を通じて農業生産性を低下させるという想定のもと、貿易が部門間資源配分の変化を通じて製品多様性に与える効果を考慮に入れ、貿易自由化の効果に関して分析を試みたものである。この試みは、研究論文"Trade and the Environment : Spatial Separation under Product Differenteation" (with Prof.Makoto Tawada)として結実している。本研究の最大の貢献は、閉鎖経済の場合、工業製品だけが貿易される場合、農産物を含むすべての財が貿易される場合について各国の経済厚生を求め、それらを比較することによって各国にとって最も望ましい貿易体制を示した点にある。
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