研究課題
本研究は、昨今のイノベーションによって生み出される財に対する需要の飽和速度が速くなってきているということに注目し、そのことが雇用率および実賃金率の上昇に及ぼす効果を純粋労働モデルに確率過程を組み込むことによって、分析することを目的としている。マルコフ過程にしたがって新しい財が生み出されるが、その生み出された財に対する需要の飽和速度に違いを設け、コンピュータ・シミュレーシュンを行った。需要速度に違いはあっても、供給条件は全て同じに設定した。時間の経過とともに、経済には異質性が誘発されるようにもなっている。その結果、需要の飽和速度の速い方が雇用率の成長は速くその最大値も高いが、実質質金率の上昇は低くなることが明らかとなった。この結果は国際雑誌にアクセプトされた。上記の結果は昨今の先進国の経済成長にとって示唆的であるように思われる。というのも、主流派経済学が薦あるようにイノベーションの促進を政策的に図ったにも拘らず、多くの先進国において実質賃金率の成長がほとんどなく格差も拡大し、質のよい経済成長とは言い難いものだったからである。新しい財やサービスを生みすという意味でのイノベーションは確かに経済成長を齎すが、質の良い経済成長を遂げるにはそのイノベーションによって生み出される財・サービスがどのような需要に関する特質を有しているかということが決定的に重要である。1960年代に日本経済が安定した質の良い経済成長を遂げることができたのは、飽和水準が高く、しかも飽和するまでに比較的長時間かかる財が多く存在したことが大きな要因であると考えられる。また、上記の純粋労働モデルに資本財を導入することを予定しているため、非均斉成長モデルにおける一様な均衡利潤率を導出し、いくつかの注目すべき特質を得た。この結果も国際雑誌に投稿し、現在reviseに取り掛かっているところである。
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TERG Discussion Paper 235
ページ: 1-28
経濟學研究(北海道大学) 58
ページ: 139-152
Structural Change and Economic Dynamics Vol.20, No.2(印刷中)