研究概要 |
データの整理, モデルの構築, プログラムの作成を行った. データは任意自動車保険の個票データである. このデータは, 岩手, 神奈川, 大阪, 鹿児島の4府県の代理店を対象に, 層化抽出法によりサンプリングされたデータであり, 本研究を含めた情報の非対称性に関する一連の研究を遂行することを目的として入手したものである. しかしこのデータは, 契約情報と事故情報が別になっているなど, ただちに統計ソフトが読み込める形にはなっていないため, データの加工・整理を初年度に行なう必要があった. 次に, モデルの構築とプログラミングを行なった. Cohen and Einav(2007)をベースモデルとして, リスクとリスク回避度を従属変数とし, 契約者の属性を説明変数とするような2本のモデルを同時に推定することを目指した. リスクもリスク回避度も観察できないが, それらと関係のある保険金請求の有無, 保険契約の選択行動は観察可能である. 従ってこれらを関連付ける関数形を特定化することで, 推定を可能にする手法を採用した. モデルの推定は, リスクとリスク回避度の2次元の領域に関して積分を行うことで尤度関数を作り, それを最大化することが自然な方向性である. しかし尤度関数に含まれる積分は複雑なため, 最尤法は計算量が膨大になる. Cohen and Einav(2007)はこの問題を解決するため, Markov Chain Monte Carlo Gibbs samplingの手法を採用することを提唱しており, 本研究でもそれを採用することにした. 現時点では推定プログラムを何度か試行的に動かした段階にある. 以上の研究の意義は, 実際のデータを用いて「情報」が保険市場にどの程度の非効率性をもたらすかを明らかにする点にある. 学術的にも, 理論的な分析が中心だった非対称情報の経済学に, 実証的な根拠あるいは反証を与えるという意味で重要である.
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