研究概要 |
平成22年度は,情報の非対称性による非効率性の大きさを計算し,Kitahara and Saito(2010)として論文にまとめた.日本の損害保険市場は長らく自動車保険料率算定会によって遵守料率がさだめられ,実質的に独占的に保険が供給されてきた.この市場特性を利用し,独占的価格設定と費用情報(Einav and Finkelstein(2011)で指摘されているように,保険市場は費用が観察可能)を用いて,需要関数の傾きを推定するという手法を取った.また推定された需要曲線をもとに,厚生損失の大きさを計算した. 本研究成果の意義は以下の2点にある.まず,独占的な保険市場における厚生損失の計測方法を提示した.これにより保険の選択と費用の情報さえあれば,厚生損失を比較的簡単な計算によって求められる.また,情報の非対称性に起因する厚生損失がどの程度かはほとんど知られていなかったが,具体的に厚生損失を計測して「失敗」の程度を計測した. 最後に重要性であるが,学問的には情報の非対称性がもたらす非効率性の程度を具体的に計算したことと,それが逆選択に由来するものかモラルハザードに由来するものか,あるいは独占によるものかを判断することで,保険市場における望ましい規制のあり方を議論した点にある. Kitahara M.and K.Saito (2010) : "Quantifying Welfare Cost of Inefficient Pricing in Insurance Markets : A Simple Model", mimeo. Einav L.and A.Finkelstein (2011) : "Selection in Insurance Markets : Theory and Empirics in Pictures", Journal of Economic Perspectives, 25(1), pp.115-38.
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