研究概要 |
本研究は、雇用している企業が外部企業に比べて正確に労働者の能力の情報を習得しているか、すなわち、労働者の能力に関する情報の非対称性があるかを実証研究する。 本年度、推計に利用するデータ(U.S.National Longitudinal Survey of Youth 1979)を整備し、Employer learningの実証分析をした。労働者をQuit(自発的転職)、Layoff(非自発的転職)、Job stayer(同じ企業内に留まる)に分けて、労働経験年数の増加に伴う学歴とAFQT(Armed Forces Qualification Test)が賃金に与える影響の変化を推計した。具体的には、観察できない労働者の能力を雇用企業のみが分かるPrivate learningであるならば(1)QuitやLayoffとJob stayerの推定結果に有意な差が見られ、(2)Job stayerの推定値が正しいEmployer learningの推定値になるはずである。推定の結果、Quitは、学歴の賃金への影響が高くAFQTの影響が低かった。Job stayerは、学歴が賃金に与える影響は労働経験年数が短いうちは増加するが、やがて低下した。この推定結果はAltonji and Pierret(2001, QJE)の学歴の賃金への影響が労働経験年数に対し単純に減衰していく結果と異なる。よって、必ずしもEmployer learning with statistical discrimination(EL-SD)が労働経験年数の短い労働者にみられなく、労働経験年数の短い労働者には(企業内人的投資が学歴に応じて行われていることが示唆された。
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