本研究は、最近の日本企業の行動が人事制度の変革、さらに従業員のインセンティブに対してどのような影響を与えているかを分析することが目的である。 平成20年度は研究の出発点として、労働インセンティブに関する研究について、契約理論の観点からのサーベイを行い、権限委譲と成果主義との関係の重要性などを中心に確認を行った。さらに従来の経済学にとどまらず行動経済学や社会心理学に範囲を広げてサーベイを行い、金銭的インセンティブに代表される外発的動機のみならず、仕事そのものに価値を見出す内発的動機など従業員の心理的側面が重要であることの確認を行った。このサーベイを参考として、(社)国際経済労働研究所の組合員向け意識調査への参画の準備として、成果主義制度などを中心とした人事制度に関する質問項目について検討を重ねた。 これと同時に企業内人事制度に影響を与えうる、企業行動に関する研究も進めた。本年度はリストラクチャリング、とくに事業のリストラクチャリングに関する研究を行った。川本真哉氏との共同論文「日本のMBO-パフォーマンス・ガバナンス・事業戦略-」は、日本企業におけるMBOは、大きく報じられるような非上場型が主流なのではなく、事業のダイベストメントを目的としたものが多いことを指摘した上で、親会社のパフォーマンスが低下しているほど、安定株主比率が低いほど、(非関連型)多角化しているほど、MBOを用いたダイベストメントを行っていることを示している。本研究は、MBOについて全体的な特徴や傾向を見出した点で意義があると言える。同研究成果を基にした論文は、WIAS Discussion Paper Seriesにおいて発表されている。以上の研究などに代表されるような企業行動が、従業員のインセンティブに対してどのような影響を与えるかについては、次年度以降の重要な研究課題である。
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