研究概要 |
本研究の目的は,日本における経済格差と健康格差について,両者の関係やそれぞれの格差をもたらす因果関係を,個票データを用いた分析により明らかにすることにある. 今年度はまず,資産格差が健康格差を生み出すかについて,前年度からの分析を継続して行った.前年度は,健康状態について良いか悪いかの2値変数を作り,1時点前の健康状態の影響を含み,誤差項に系列相関を考慮するモデルのプログラムを作成し,豊かであるほど健康状態がよいという結果を得ていた.しかしながら,頑健性を確かめる中で複数の問題を発見した,とくに,パネルデータの脱落問題や,健康を2値変数として捉えることの問題が大きかった.現在,健康をより細かく分けた離散変数について,先決変数と系列相関を考慮した分析を行っている("Health and Wealth Accumulation in Japan"として執筆中.来年12月発表予定). つぎに,資産階級によって健康を作り出すための行動(具体的には調理という家計生産)に差が存在するかについて分析した.分析には,各家計の毎日の支出項目が詳細に分かるデータを用いることで,家計が食材と時間を投入することで健康によい食事を行っているかに注目した.購入品から家計生産を計測することにより,ほとんどの先行研究で家事労働時間を用いるために生じる測定誤差バイアスの問題が小さくなるという利点もあった.分析の結果,貧しいほど健康に悪い食事を行うという諸外国で見られる関係は日本では必ずしも確認されないことが分かった("Do working mothers reduce their home production?"として執筆中.6月発表予定). なお,前年度までに分析を完了していた「予防状態と健康状態」については,査読審査をうけ改訂稿を提出したのち採択された(2010年10月掲載済み).
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