研究概要 |
本研究は,労働市場における大学院教育の効果を経済学的に測定し,大学院改革政策の評価と今後の指針の礎を築くことを目的としている。特に,これまでの教育(学歴)効果の研究においては,労働供給側のデータが利用されることが多く,わずかながらに存在する大学院教育効果の研究についても例外ではない。そこで本研究は,労働需要側の側面,すなわち経営側の意思とその反映である処遇からこの課題を解明することを試みる。 平成21年度は,まず,前年度,学術誌に投稿した論文が査読を経て掲載されるという成果があった。学卒後すぐに大学院に進学した者だけでなく社会人大学院生を含めたかたちで進めた研究が結実した。その重要な貢献は,大学院教育を受ける前の仕事と大学院教育の内容,また大学院教育の内容と卒業後の仕事の一致・不一致,すなわちキャリアの連続性が賃金上昇に対して持つ正の効果の発見であった。 また,今年度は,上場企業の人事部に対して大学院卒が企業の中でどのような処遇を受けているのかを明らかにするために,郵送アンケート調査を行った。この調査は1998年に行なわれた同種の調査の追跡調査であり得られたデータは,前回調査のデータと比較できるコーホートデータとなっている。得られたデータから明らかになった事実は次の通りである。(1)市場における大学院卒の採用は微増,(2)採用の微増,すなわち供給圧力の強まりによって大学院卒の大卒に対する処遇プレミアム(初任配属の優遇,初任給の高さ,賃金上昇率の高さ,昇進の速さ)は10年前に比べて目減りしている。(3)しかし,初任給が大卒+勤続2年分より高い企業ほどその後の賃金上昇率が高いこと,文系において初任配属が専攻に近いなどといった処遇プレミアムの構造自体には変化がなかった。このような大学院卒の処遇実態を明らかにすることで,教育政策の評価,キャリア形成における教育効果の測定に寄与できたと考えている。
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