教育のシステムデザインをテーマとして、理論、実証両面において研究活動に従事した。 理論モデルの構築に関しては、各個人がそれまでの教育成果を前提として、自身の適性や能力に関する期待値を条件付きでアップデートし、効用を最大化するよう教育に関する意思決定を各期に行う動学的理論モデルの構築に努めた。そこでは、早い段階での専門化(もしくは才能の選抜)は(最終的な教育成果が不確実であるがゆえに)個人を過度なリスクにさらす一方で、専門化を遅らせることは、非効率な教育につながる。こうしたトレードオフに直面した状況で、専門化を行うタイミングならびにその選抜基準に関して望ましい教育システムのあり方を検証したのが実証面での成果である。 具体的には、ヨーロッパの18か国の統計データを用いて、最適な教育システムについてのカリブレーションを行った。結果として、近年のヨーロッパにおける専門の早期化を理論的に裏付けた。この成果は海外専門誌に公刊される運びとなった。 加えて、優れた才能の発掘、ならびにその育成を効率的に行う教育システムに関しても研究を行った。囲碁、将棋、チェスの育成システムを題材として、それを理論モデルとして記述すると同時に、プロを目指すプレイヤーのデータを用いて才能発掘メカニズムの効率性を検証した。各プレイヤーが、これまでの勝敗結果をもとに自分自身の才能の有無を予測し、引き続き競争を続けるか否かを決定するプロセスを動学的意思決定モデルとして記述し、データをもとに構造推定を行っている点に研究の特徴がある。この研究の一部成果は、ワーキングペーパーないしは研究報告書の形で発表した。
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