本研究では、アジアの地理空間に対応した多地域からなる空間経済学のモデルを構築し、アジア地域内の経済活動の地域間分布と地域産業構成について、シミュレーション分析を行っている。経済活動の立地については、一国の経済政策のみならず、他国の経済情勢、政策、そしてその国の「地理的な条件」が大きく影響する。つまり、空間経済学において大都市が一定の間隔をおいて分布することが指摘されるように、経済活動の集積地点は互いに影響を与え、一定の距離を置いて形成されることが考えられる。こうした地理的(距離的)な要素に加え、各国の土地賦存量、賃金水準、インフラストック、税制、経済開放度などを考慮した上で、アジア地域内の経済活動の立地を分析する。 21年度は、前年度に引き続き空間経済学に基づく多地域モデルを用いて、アジアの地理空間における経済活動の立地についての分析を追加し、またその成果を論文としてまとめている。その結論は次の通りである。(i) 原材料/製品輸送費比率の低下とともに経済活動の集積傾向が強まること。(ii) 輸送費の低下とともに立地が分散から集積、再分散へ変化すること。ここに土地や社会資本分布を導入し、アジア10カ国における経済活動の分布についてシミュレーション分析を行うと、(iii) 輸送費の低下とともに経済活動は分散から中国への集中、インドへの集中を経て、再分散化することが示された。以上に加え、近年は空間経済学の分野で実証研究が増加傾向にあることから、21年度からはこれらの実証研究の成果を利用してシミュレーション分析を補強することを試みている。
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